海鳴り・波小僧あれこれ

2022年9月19日

子どもたちの前浜

写真のとおり、現在、海岸一帯は遊泳禁止となっています。しかしかつて、ここは子どもたちの最上の遊び場であり、子どもたちは波とも大いに戯れたといいます。

そんな頃に、子ども時代を過ごした方にとって、この前浜(マエハマ)は身体的な記憶が宿る大切な場所です。30年ほど前に編纂されたわが町文化誌のうち篠原地区の『浜風と街道』にはこんな記述があります。

 私たちの育った篠原地区は、海沿いの村であり、子供たちの遊び場は、家の周や、いくつもの広い空地や池、お寺やお宮がありましたが、それにもまさるものは、なんと言っても前浜の波と風、砂の感触だったように思います。駆けっこをして、相撲をとって、大あばれして、息も絶え絶えに、砂浜に横たわると、それは不思議と、母の内懐に、抱かれたようなぬくもりと、やすらぎと、もの悲しさを覚えたものでした。(浜松市立篠原公民館・わが町文化誌編集委員会編, 1989: 44)

 夏には、前浜や裏の川でよく泳いだ。前浜は現在、遊泳禁止だが昔は子供たちでにぎわった。危険な「ダシ」も高学年になれば誰でも見分けができた。浅瀬まで泳いでいき、貝をとったり時には大きなカニをも捕えた。(浜松市立篠原公民館・わが町文化誌編集委員会編, 1989: 44: 149)

このような体験をもつ方にお話を伺うと、本当に生き生きと、当時の体験を語ってくださいます。「土用波」と呼ばれる高波が出るころにはもう遊んではいけない、という大人のつい教えのもと、遊びにあそんだ夏の前浜。昔の人々が「波小僧」というイメージを膨らませたのは、もしかすると、地引網漁のあいまに見る、波と戯れる子どもたちの姿であったのかもしれません。

釣り人、サーファー、そして家族連れ、前浜を訪れる人々の姿は防潮堤の整備などとともに、前浜は大きく様変わりしてきましたが、海と人との絆を深める場として、今後も大切にされていくことを願ってやみません。

(だ)

 海鳴り・波小僧あれこれ記事一覧へ 
PAGE TOPPAGE TOP