海鳴り・波小僧あれこれ

2023年8月2日

他の地方にもあった「七不思議」の「波の音」

関東地方、鹿島灘に面した鹿島神宮(茨城県鹿島市)にも、遠州七不思議に似た「波の音」の伝承が伝わっています。鹿島七不思議の一つ「海の音」では、以下のように語られています。

――浪の響が上(北)の方に聞こえれば日和、下(南)の方に響けば雨降るという――
波音の方角と天気の対応は少し異なりますが、遠州七不思議の「波の音」と似ていますね。鹿島市もまた遠州同様に鹿島灘という灘(波の荒い海の難所)に面した地域です。

また、日本海側、新潟県には「越後七不思議」の伝承があり、例えば『北越奇談』(橘崑崙、1812)には「古(いにしへ)の七奇」として「海鳴」の話が出てきます。

――海鳴(うみなり)は晴天といへども雨ならんとするとき己(すで)ニ海潮(かいてう)の響五六里に聞(きこ)へわたりて南にあり 風雨の日も晴(はれ)んとするときは北に聞(きこ)ゆ 是(これ)をもって国人(くにうど)晴(はれ)を占(うらな)ふ 今九州灘ニ是と類するところありといへり――

これによれば九州地方にも同様の言い伝えがあったらしいことがわかります。

千葉県銚子市や山口県江崎地区では、夜中に村の長老などが波や風の鳴り具合に耳を澄まし、翌日の陽気や出航を判断する「鳴り聞き」の風習があったといいます。(川島秀一、2003、『漁撈伝承』)(矢内秋生、2021、『波の来し方その行方 波の名前、海の名前 美しく失われる風景〜気象・海象・観天望気)

海鳴りに耳を澄ます文化は、かつては日本の沿岸各地にあったのかもしれません。それが「波小僧」という物語となって今でも伝わっているのが、遠州の興味深いところなのではないでしょうか。(か)

 

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