海鳴り・波小僧あれこれ

2023年1月5日

2022年波音証言のまとめ

これまで「みんなでつくろう波音マップ」には、15件の証言(うち「記憶編」4件、「2022年夏編」11件)を寄せていただきました。投稿していただいたみなさま、また本サイトをご紹介いただいたみなさまに、心よりお礼申し上げます。

冒頭に掲載したスクリーンショット画像のとおり、いただいた15件の証言を反映させたマップはすでに公開しておりますが、本記事ではご協力いただいたみなさまへのお礼の意味も込め、その内容をあらためてまとめます。

「記憶編」の内容

記憶編にいただいた4件の投稿を表1にまとめます。得られた証言の順番どおりに記載しています。

表1 「記憶編」に寄せられた証言

最も海岸から遠い証言は、中区の荻丘(No.1)から寄せられました。海岸から約8kmほどにあり、幹線道路が複数走り、また航空自衛隊浜松基地も近くにあります。現在、市街地化が進んでいるこの地域で、昭和40年代(1965年~1965年)まで波音が聞こえていたというのは大変興味深いですね。

最も沿岸に近いのは、南区の中田島からの投稿(No.2)ですが、「記憶にあるのは」と留保したうえで2012年頃まで聞こえていたと証言されています。沿岸から5kmほどにある神ヶ谷からの証言(No.4)ではいまも波音が聞えているとのことですので、沿岸付近の中田島でも聞こえていておかしくありません。証言していただいた方の生活エリア付近で道路交通騒音などで聞きにくくなっているか、(聞こえていても)波音を意識的に聞かなくなっているということなのかもしれません。また神ヶ谷でも、1990年ごろまで聞こえていたという証言(No.3)が寄せられています。
※神ヶ谷エリアでは、私たちや地元の調査者による調査でも波音が実際に観察されています。

「2022夏編」の内容

「2022夏編」に寄せられた11件をまとめたのが表2です。表記をそろえるために文章を若干修正しています。また証言の順番は、波音が聞こえた日時の回答にあわせて若干入れ替えています。

表2 「2022夏編」に寄せられた証言

2022年、遠州灘沿岸を通過した台風は、8号(お盆前)、11号(9月初頭)、14号(9月後半)でした。いただいた証言をみると、8号と14号が接近したころに証言が多く寄せられています。No.11の証言は14号接近時の報告ですが、8号接近時に聞いた音(No.5)との違いを比べてくださっていて、大変興味深いです。

台風以外にも、5月から「穏やか」に「ゴー」という音が聞こえているという証言(No.1)もあり、台風だけではなく春を過ぎて気温が上昇してくるなかで、波音が日常的に高まっていく様子もうかがえます。まさにこの地域・この季節の音風景という感じがしますね。

波音が聞こえる天候に晴れや曇りなどが多いのも面白いです。いま・ここで雨や風が強くなくとも、波音は〈これから崩れる〉あるいは〈まだまだ安心できない〉という情報を伝えてくれるようです。
※No.8では、庭の細葉囲いで風から守られながら音を聞かれている様子がうかがえます。細葉囲いが音を聞きやすくするデザインになっているとしたら、大変に興味深い発見です。

証言が寄せられたエリアのうち、海岸から最も離れているのは富塚(No.2)で、同じく沿岸から5,6kmほどの神ヶ谷からも証言(No.10)が「記憶編」同様に寄せられています。

中区東伊場など、道路交通騒音などが大きそうな地区からも証言が得られたことも、興味深い点です。南区三島では2階のベランダで聞こえたという証言もあります。都市化・市街地化が進んだエリアでも波音が聞こえやすいポイントが案外とあるのかもしれません。ひょっとすると浜松駅周辺でも聞こえるかも?

「聞く」の不思議?

表1のNo.2は、沿岸に近い中田島でありながら10年前の記憶にもとづく証言でした。また表2のNo.2のように富塚で耳をすましてみて波音のように聞えるが自信がないという様子の証言もあります。

波音に限らず、実際に音が鳴っていて聞こえている「はず」でも、気づいていないということがよくあります。また音が聞こえたと思っても、音の正体がわからないと、それが本当に聞こえたのか確証はもてません。遠州7不思議のひとつだけあって、遠州灘の波音は、「音」や「聞こえる」ということの不思議さや面白さを強く感じさせてくれる存在なのかもしれません。

他方で、自信をもって聞こえている様子を証言してくださっている投稿もありました。表1のNo.4の神ヶ谷からの証言には、過去から現在まで〈波音は確かに聞こえている〉という生活実感がうかがえます。また表2のNo7.やNo.10の「いつもの音」「いつも台風の影響のあるときには」という表現からも同様の様子が感じられます。

遠州灘の海鳴り・波小僧伝承の基礎は、「波音が聞こえる」という確かな生活実感といえるでしょう。波音の音風景を生活のなかの文化として後世に伝えていくためには、音の不思議さを感じつつも、こうした確かな耳を地域のなかで育んでいく必要があるといえるかもしれません。

まとめ

15件という少数の証言ではありますが、おかげ様で以上のように興味深い発見や洞察が得られました。証言をお寄せいただいたみなさま、本当にありがとうございました。昨年12月には、この情報にくわえ、私たちや地元の調査者で集めている情報をあわせて研究報告を行いました。こちらもぜひお読みいただければ幸いです。

しかし、私たちの独自の調査では、今回ご紹介した荻丘や富塚・神ヶ谷よりも、はるかに海から離れた引佐地区で波音が聞こえることがわかってきています。より豊かな発見と確かな事実確認のために、これまで以上に多くみなさまからの証言が必要です。2022年夏のシーズンはすでに終わっていますが、「記憶編」は証言を随時募集していますので、ぜひご投稿をご検討ください。。また次のシーズン「2023夏編」も募集を行う予定です。

これからも「遠州波小僧プロジェクト」へのご協力を、何卒よろしくお願い申し上げます。

(だ)

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